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鳥の巣のような頭が、混み合う酒場のテーブルで激しく揺れる。
揺らされているわけではない。店が狭く、ごった返す人々の腰がゴメスンの椅子の背もたれに当たって体が揺れているのだ。
この店で、この時間に人が混み合うことはあり得ない。
国の催しものが開かれ、諸外国から人が集まってきても、こんなに人が集まることはないだろう。
「ゴメスンさん。どうしたんですか? 突然全員に酒と肴を奢るなんて。金貨でも落ちてたんで?」
酷い出っ歯の男が、出っ歯を感じさせない滑舌の良さで目の前に座るゴメスンに喋りかける。
ゴメスンはニヤリと笑うと、勿体つけたように口を開いた。
「驚けナグロフ。俺が勇者だとよ!! けっけっけっ!!」
「カッカッカッ!! そいつは驚きですぜ! ……んで、ホントのところはなんなんで?」
ゴメスンは笑いすぎてむせながら、粗悪な店ではあるがそこで一番高い果実酒を一気にあおった。
「だよなぁ。普通そういう反応だろ?」
「当たり前ですな」
「それがよぉ、相手が大真面目ぶっこいて、俺が勇者だっつってくんだよ」
「相手? この辺りで詐欺を働くとしたらハブラム兄弟ですかい? いや、流石にゴメスンさんに詐欺を働くとは思えやせんがね」
ここでゴメスンは急に真面目な顔になって、出っ歯のナグロフを見つめる。
「違ぇな。王宮からの使いで、近衛兵がきやがった」
「はい? なんか強い薬でもやったんですかい?」
「真面目に、だ。薬なんか若い頃からやっちゃいねぇよ。近衛兵の宝刀まで見せてきやがんだ」
宝刀の大きさを手で表しながらナグロフへ説明している。
ナグロフはゴメスンの無くなったコップの中身に気付いて、汗だくで走り回る店主へ追加の酒を頼んだ。
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