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「ただいま」
神崎くんは席について、
「最近お弁当なんですね、小城さん」
「うん、料理の腕をあげたくて」
「誰か、気になる人ができたとか?」
気になる人──そう言われて、一瞬新田さんの顔が思い浮かんだ。まさか。
「いないよ、そんなの」
私はそう言いながら、お弁当を食べた。
業務が終わった帰り際、神崎くんが声をかけてきた。
「小城さん、今日、飲みに行きませんか?」
私は、エレベーターのボタンを押しながら、
「うーん、やめとこうよ。新田さんいないし」
「新田さんがいないと、僕と飲みたくないですか?」
「え……」
私は、神崎くんの方を振り向いた。彼は一瞬真面目な顔をしたあと、笑みを作った。
「ちょっと、忘れ物しちゃいました。じゃあ」
「あ、うん……さよなら」
私はエレベーターに乗り込んで、「閉」のボタンを押した。エレベーターがぐんぐん下がっていく間、神崎くんの言葉が、頭の中をぐるぐる回っていた。
新田さんがいないと嫌だなんて、子供みたいじゃないか。そんなことない。私は、新田さんがいなくたって──。でも、神崎くんと二人で飲んでいるイメージは、まるで湧かなかった。
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