前編

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 自宅に帰り、冷蔵庫の中身を開けると、卵と玉ねぎ、それに油揚げがあったので、篠田丼をつくる。こんなの料理とは言えないかもしれないけど、ひと月前なら、インスタント食品で済ませていた。料理を作るようになったのは、神崎くんが現れてからだ。  ──なんか、違う。  神崎くんが総務課にくる前と、後で、何かが変わった。でも、それが何かわからない。ぐるぐるしている。  こんなの、今までなかった。  私は、サンダルをつっかけて、コンビニに向かった。チューハイを買い込み、自宅に戻る。二杯開けたところで、クラクラしてきて、私は床に寝転がった。  ぼんやりした頭で手を伸ばし、スマホを手にする。アドレス帳を開き、「新田さん」と書かれた番号を押した。プルルルル……着信音が響いたあと、通話がつながり、ハイ、と声がした。 「にったさん、こんばんわ」 「……オギ?」 「ハイ。へへ、オギです。おぎやはぎじゃないほうのオギです」 「ちょっとやめてよ、アタシ結構、あの人すきなんだから」  で、なんなの? と新田さんは尋ねてくる。 「新田さんの声が、聞きたくて」 「……あんた、酔っ払ってない?」  新田さんの声は、いつもより低く聞こえた。素敵な声だ。男のひとの、声だ。 「酔ってませんよぉ」 「酔ってんでしょう。あんまり飲むと明日辛いわよ。早く寝なさい」 「新田さんは、お母さんみたいですねえ」 「アンタみたいなガキを産んだ覚えはないわよ」     
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