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自分の心臓が痛いほど鳴っているのがわかり、私は鞄の持ち手をぎゅっと握りしめた。新田さんの腕やシャツと、自分の身体が触れ合うたび、こめかみのあたりが熱くなって、逃げ出したくなる。
早くフロアについて──私はそう祈った。
ポーン、と到着を告げる音がして、みんながドヤドヤ降りていった。新田さんの身体がふっ、と離れる。私は真っ赤な顔を伏せ、息を吐いた。
昼休み、弁当を取り出していたら、肩を叩かれた。振り向くと、新田さんが立っていた。彼はくい、と出口を指し示す。
「ちょっと来て」
さっさと歩き出した新田さんに、私は慌ててついていった。
新田さんが私を連れて行ったのは、会社の屋上だった。風がつよくて、髪がなぶられる。
「ん」
新田さんが、袋を差し出した。私が受け取るのをためらっていると、さっさと受け取れ、とばかりに顎をしゃくる。
「お土産よ。生キャラメル」
覚えててくれたんだ。私はありがとうございます、と言い、袋を受け取った。しばらく、沈黙が落ちる。口火を切ったのは、私だった。
「あ、あの、昨日は変な電話してすいません」
「別にいいけど」
新田さんはいつもより低い声で言った。それに、テンションも低い。もしかしたら、これが新田さんの素なのかもしれない。
ふっ、と視線がこちらを向いた。
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