後編

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 ──どうしよう、足が震える。聞かなくても、何を言われるかわかっていた。逃げ出してしまいたいのに、新田さんの視線がそれを許さない。  彼は私をまっすぐ見て、 「ちゃんと言ったことはなかったけど、私は男が好きなの。あんた流に言えば、多分生まれつきでね」  それはどうしようもないことだ、と新田さんは言った。 「だから、あんたがどんなにいい子でも、恋愛感情は持てないのよ」  私は、小さな声ではい、と言った。  新田さんは、悲しそうな目でこちらを見た。 「あんたが嫌いなわけじゃないの。でも、無理なのよ」 「わかってます」 「ごめんね」  そんなの、わかってる。胸がヒリヒリして、喉がひどく痛い。なんだろう、これ。風邪でも引いたみたいに、辛い。でも平気なふりをして、尋ねた。 「また、飲みに行ってくれますか?」 「ええ」 「あっ、私今日、お茶当番でした。すいません」  私は頭をさげ、踵を返した。とにかく、その場から逃げたくて仕方がなかった。  給湯室でお湯が沸く間、湯のみの準備をする。ぼうっとしていたせいか、つるっ、と滑り落ちた湯のみが、音を立てて割れた。 「あーあ」  私はしゃがみこみ、湯のみのかけらを拾い集めた。指先が震えて、床にポタリと水滴が落ちる。  多分、もう新田さんとは、今までのようにはできないだろう。私が壊してしまったのだ。新田さんとの関係を。     
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