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──どうしよう、足が震える。聞かなくても、何を言われるかわかっていた。逃げ出してしまいたいのに、新田さんの視線がそれを許さない。
彼は私をまっすぐ見て、
「ちゃんと言ったことはなかったけど、私は男が好きなの。あんた流に言えば、多分生まれつきでね」
それはどうしようもないことだ、と新田さんは言った。
「だから、あんたがどんなにいい子でも、恋愛感情は持てないのよ」
私は、小さな声ではい、と言った。
新田さんは、悲しそうな目でこちらを見た。
「あんたが嫌いなわけじゃないの。でも、無理なのよ」
「わかってます」
「ごめんね」
そんなの、わかってる。胸がヒリヒリして、喉がひどく痛い。なんだろう、これ。風邪でも引いたみたいに、辛い。でも平気なふりをして、尋ねた。
「また、飲みに行ってくれますか?」
「ええ」
「あっ、私今日、お茶当番でした。すいません」
私は頭をさげ、踵を返した。とにかく、その場から逃げたくて仕方がなかった。
給湯室でお湯が沸く間、湯のみの準備をする。ぼうっとしていたせいか、つるっ、と滑り落ちた湯のみが、音を立てて割れた。
「あーあ」
私はしゃがみこみ、湯のみのかけらを拾い集めた。指先が震えて、床にポタリと水滴が落ちる。
多分、もう新田さんとは、今までのようにはできないだろう。私が壊してしまったのだ。新田さんとの関係を。
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