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「いかないでください」
くぐもった声が漏れる。
「……それは無理よ。もう手続き済んでるし」
「じゃあ、私もついていきます」
無理よ。そう言われ、無理じゃありません、と返した。
「アンタ、うざいわね。っていうか重いわ」
離しなさい。そう言われて、私はびくりと震えた。腕を引くと、新田さんの手が頭に触れた。彼は、今まで見たことのない、優しい顔をしていた。私の髪を撫でながら、新田さんは言う。
「あんたのこと、すきよ。女の中では、一番好きよ」
それは優しいけど、残酷な言葉だった。
「……全人類で、一番がいいです」
「ワガママね」
新田さんは私の?を引っ張った。
「変な顔」
彼は笑いながら、
「早く結婚しなさい」
そう言った。その言葉は、本気だった。新田さんのことは忘れろって言ってるのだ。私は震える声で、はい、と答えた。
そうして、新田さんは、二ヶ月後、会社を退職し、北海道へと旅立った。
★
この世には、超えられないものがある。男と女の間には壁がある。私は男にはなれないし、性転換でもしたら別なんだろうけど──たとえしても、精神的には女だ。
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