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新田さんは、男と女のハザマにどんっ、と居座っている。多分、いくら時が経っても、それは変わらないのだ。
私は、箱の中に一つだけ残った、生キャラメルを見つめた。パンドラは、災厄をまき散らしたあと、残った希望で世界を救ったのだろうか。
私の恋が叶おうが叶うまいが、世界はなにも変わらない。それでも、希望を手放したくなかった。
私は、新田さん、とつぶやいて、生キャラメルを握りしめた。
★
新田さん、お元気ですか? 私は元気です。名古屋は毎日暑いです。北海道は涼しいですか? 夏休みが取れたら、遊びに行きたいんですが、だめですか?
私はメールを打ち、送信ボタンを押した。時計をちら、と見る。もうすぐお昼休みが終わる。
「神崎さあん」
キャラメルみたいな声の女子社員が、神崎くんに話しかけている。神崎くんは爽やかスマイルを向けつつも、ちょっと気圧されていた。
「宮下さんまたやってるわよ」
「何のために会社来てんだか」
女子社員たちがチクチクと言う。羨望と嫉妬がおりまぜになった怖い顔。私が新田さんと神崎くんに妬いていたときも、あんな顔をしてたんだろうか。
私はその場のおっかない空気に肩をすくめ、給湯室に向かった。触らぬ神崎に祟りなし。なんちゃって。
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