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湯呑みを洗っていたら、スマホが鳴ったので、水気を拭いてから手に取る。新田さんからのメールだ。そこにはただ一言、
「邪魔だから来ないで」
と書かれていた。
新田さんがいなくなってから半年が経った。変わったことといえば、髪を切ったことと、名古屋に夏がやってきたことくらいだ。
名古屋の夏は、とにかく蒸し暑い。一歩外に出るなり、スチームで焼かれているような気分になる。
それでも、夕方は多少涼しい。私は水曜日になると、一人で居酒屋へ向かう。新田さんとよく行った居酒屋で、ちびちび飲んで、帰る。その習慣が、今日は妙に気鬱だった。
新田さんには会えないし。
ざわざわとした喧騒に、なんだか寂しさが込み上げてくる。
私は、スマホを取り出し、受話器マークを押した。呼び出し音のあと、はい、と声がする。──あ、新田さんの声だ。ドキドキしながら、名前を呼ぶ。
「……新田さん」
「なに、なんか用」
「ちょっと、寂しくて」
「ハア? 寂しくて電話? 独居老人か、アンタは」
すごい例えである。
「っていうか、彼氏にでも電話しなさいよ」
「彼氏は、忙しいひとなので」
彼氏なんかいなかったが、とっさに見栄を張る。ちょっとは気にしてくれるかと思ったのだ。
「あっそ。切るわよ。じゃあね」
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