前編

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「いたっ、なにすんのよ」 「セクハラです」 「なあにがセクハラよ。これだから処女は」  ますますセクハラだが、新田さんなので許せてしまう。  新田さんは串を皿に置き、 「本当ならアタシ、あんたみたいな礼儀のなってない後輩はキライなんだけど、あんた世渡り下手そうだし、なんか情が移っちゃったのよねえ」 「そうですか」 「そうですか、じゃないわよ。はー……」  新田さんが、肘をついた。目を伏せると、刷毛のような長いまつ毛が揺れる。アンニュイな表情に、どうしたんですか、と尋ねた。 「秋じゃない? なんか寂しくって」 「はあ」  私は皿に残っていた味噌カツをたいらげ、天むすを追加注文した。たしかに食欲の秋である。  新田さんはテーブルにのの字を書きながら、 「でさあ、犬か猫でも飼おうと思ってんの。どっちがいいかしら」 「いぬでひょ」  味噌カツを咀嚼しながら言うと、新田さんはたそがれ顔でつぶやいた。 「なんかさあ、一生アンタとここでくっちゃべってる気がして怖いわ……」  私はハア、と適当な返事をし、喉にビールを流し込んだ。     
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