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「いたっ、なにすんのよ」
「セクハラです」
「なあにがセクハラよ。これだから処女は」
ますますセクハラだが、新田さんなので許せてしまう。
新田さんは串を皿に置き、
「本当ならアタシ、あんたみたいな礼儀のなってない後輩はキライなんだけど、あんた世渡り下手そうだし、なんか情が移っちゃったのよねえ」
「そうですか」
「そうですか、じゃないわよ。はー……」
新田さんが、肘をついた。目を伏せると、刷毛のような長いまつ毛が揺れる。アンニュイな表情に、どうしたんですか、と尋ねた。
「秋じゃない? なんか寂しくって」
「はあ」
私は皿に残っていた味噌カツをたいらげ、天むすを追加注文した。たしかに食欲の秋である。
新田さんはテーブルにのの字を書きながら、
「でさあ、犬か猫でも飼おうと思ってんの。どっちがいいかしら」
「いぬでひょ」
味噌カツを咀嚼しながら言うと、新田さんはたそがれ顔でつぶやいた。
「なんかさあ、一生アンタとここでくっちゃべってる気がして怖いわ……」
私はハア、と適当な返事をし、喉にビールを流し込んだ。
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