前編

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 最悪だ。もうすぐ終業時間だというのに。とりあえず、コーヒーでも飲んで落ち着こう。コーヒーサーバーの方へ向かうと、新田さんと神崎くんが、また仲良く話しているのが見えた。私は反射的に、席へ引き返す。  ムカムカムカムカ……。ムカつきの虫ってやつがいるとしたら、きっといま私の胸を荒らし回っているんじゃないだろうか。  神崎くんが帰っていき、新田さんが近づいてきたのがわかった。あんたまだやってんの?ノロマねぇ。そう言われたら、多分ムカつきがマックスになってしまう──  だが、新田さんは予想に反してなにも言わず、私のデスクに袋を置いた。私は、それをちらっと見る。 「なんですか? これ」 「ニキビに効く薬。飲み薬と、塗る薬があるから」  ちゃんと説明書読みなさいよ。あんた雑だから。新田さんはそう言った。 「あ、ありがとうございます」  新田さんはふ、と笑い、私の髪をくしゃっと撫でた。そのままブースを出て行く。私は化粧ポーチから鏡を取り出し、ニキビ薬をちょいちょい、と塗った。  ちょっと顔が笑っているあたり、私もチョロいな。ムカムカは、ニキビ薬のおかげなのか、すっかり消えていた。  私は電車に揺られながら、スマホでお弁当のおかずを検索する。この、にんじんの肉巻きっておいしそうだな。     
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