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駅から自宅へ帰る途中、閉店間近のスーパーに寄った。いくつか食品を買い、帰宅する。テレビを見ながらお茶漬けを食べたあと、台所に立った。
にんじんの皮をピーラーでむき、切り始める。生の野菜って、硬い。うぎぎ、と力を入れていたら、ざくっ、と嫌な音がした。
「痛っ」
切ってしまった中指に、じわじわ血が滲んでいく。全然うまくいかないし、もうやめようか……。そう思っていると、脳裏に、新田さんの感心した声が響いた。
──へえ、あんたやればできるじゃない。
実際そんなこと、一度も言われたことはないけれど。私はティッシュを指にグルグル巻きつけ、再びニンジンに挑んだ。
窓から朝日が差して、鳥の鳴く声が聞こえてくる。
「で、できた……」
全体的に茶色い上に、ごはんの分量が多いが、出来がどうとかはもはや気にならない。
私は、ふらふらしながら布団に倒れこんだ。時刻はもう四時だ。
あと三時間しか寝られないが、眠らないよりはマシだろう。新田さん、驚くかなあ。
「……」
なんだかすごく、恥ずかしくなってきた。どんだけ新田さんに褒められたいんだ、私は。じたばた手足を動かして、布団に突っ伏した。
寝ぼけ眼で出勤した私は、お昼がくるまで、ひたすら弁当の方を気にした。あまりにそわそわしていたので、心配した神崎くんが声をかけてくる。
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