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「大丈夫ですか? 具合でも悪いとか」
「うん、大丈夫」
そしてついに、昼が来た。私は弁当を取り出そうとして、ギョッとする。神崎くんが、ものすごく美味しそうなお弁当を広げていたのだ。卵焼きはつやつやで、ウインナーはたこさん。きんぴらの胡麻も黄金に輝いている。
「お、美味しそうだね……」
「今日時間があったので、作ってきたんです」
神崎くんは、女子社員の間で神崎スマイル、と呼ばれる笑顔を浮かべた。
「ヤダ、美味しそう~」
新田さんは、キャピッ、という効果音がつきそうな仕草で、手を組み合わせた。そんなキャラじゃないくせに。彼はチラッとこちらを見て、
「あんたは?」
私はお弁当の入ったカバンを抱きしめ、
「あ、コンビニです」
「またぁ?」
神崎くんを見習いなさいよ。その言葉に、ちくりと胸が痛む。もし、新田さんの価値観を天秤であらわしたら、私は神崎くんより、ずっと軽いんだろうなって。
「ちょっと、指どうしたの?」
「カミソリで切りました」
私はとっさに嘘をついた。
「どんだけ不器用なのよ」
新田さんはそう言って、また神崎くんの弁当に向き直った。
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