前編

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「大丈夫ですか? 具合でも悪いとか」 「うん、大丈夫」  そしてついに、昼が来た。私は弁当を取り出そうとして、ギョッとする。神崎くんが、ものすごく美味しそうなお弁当を広げていたのだ。卵焼きはつやつやで、ウインナーはたこさん。きんぴらの胡麻も黄金に輝いている。 「お、美味しそうだね……」 「今日時間があったので、作ってきたんです」  神崎くんは、女子社員の間で神崎スマイル、と呼ばれる笑顔を浮かべた。 「ヤダ、美味しそう~」  新田さんは、キャピッ、という効果音がつきそうな仕草で、手を組み合わせた。そんなキャラじゃないくせに。彼はチラッとこちらを見て、 「あんたは?」  私はお弁当の入ったカバンを抱きしめ、 「あ、コンビニです」 「またぁ?」  神崎くんを見習いなさいよ。その言葉に、ちくりと胸が痛む。もし、新田さんの価値観を天秤であらわしたら、私は神崎くんより、ずっと軽いんだろうなって。 「ちょっと、指どうしたの?」 「カミソリで切りました」  私はとっさに嘘をついた。 「どんだけ不器用なのよ」  新田さんはそう言って、また神崎くんの弁当に向き直った。     
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