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『……でも』
「…?」
『今は…、2階建てのアパートの前にいる』
「2階建て…?」
今先輩が住んでるとこ、5階じゃなかったっけ…?
「え、ちょ…」
『…早く降りてこい』
「…っ」
通話も切らず、上着を羽織るのも忘れて外に飛び出した。
コンクリートの階段を、2段飛ばしで駆け降りる。
「『…久しぶり』」
「っ、先輩…!」
うそ、いる。
なんで。
「なんで…?」
「仕事、終わったから」
「でも…、あと1週間は会えないって…」
「…あー、うん。…なんとかなった」
「…っ」
はは、って笑う先輩を、思わず抱きしめた。
…いや。
正確には“抱きついた”。
「ぅおッ!?──てかお前…、…上着は?」
「…寒い」
「ばーか。…急ぎすぎ」
くしゃっと、乾かしたばかりの髪を撫でられる。
そりゃ、急ぎもするよ。
だってまさか、いるなんて思わないだろ。
「淋しかった?」
にや、と笑いながら聞く先輩を一発殴ってやりたくなりつつも、聞かれたことは図星なわけで。
…1ヶ月だって、俺には長かったんだよ。
去年までは、毎日のように会えてたんだから。
「…そりゃ、ね」
「お?珍しく素直だな」
よしよし、って頭を撫でられた。
…何これ。
なんか、ガキ扱いされてるみたいでムカつくんですけど。
「俺はいつでも素直ですー」
「どこが、…っておいっ」
けど、…今日はガキでもいいや。
久しぶりに触れた先輩が、俺から逃げられないくらい、強く抱きついた。
「……おかえり」
一方通行じゃない って、自惚れてもいいですか。
「おう、…ただいま」
声が震えてた、だなんて。
気付かなかったことにして?
END.
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