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久しぶりの電話。
久しぶりの、先輩の声。
『えーとー…、…元気か?』
「…うん。……先輩は?」
『あー、うん、まぁ…』
“元気か?”って…。
聞き慣れた声で、馴染みのない台詞。
「…ふ、なんか…、他人行儀」
『あ?なに?』
「いや、何でもないよ」
ひとり、苦笑い。
きっと、先輩は久しぶりすぎて何言っていいかわかんないんだ。
電話なんて、普段めったにしないし。
…俺相手に、何緊張してんだか。
「…先輩さぁ、」
『ん?』
「………………淋しかった?」
『は?』
しばらくの沈黙。
…あれ。
俺なんかやらかした?
「…先輩?」
『…お前は』
「え?」
『……多岐は、どうなんだ』
「……」
携帯を耳に押し付けたまま固まる。
俺が聞いたのに…。
それ、聞き返すんだ?
「…俺?」
『そ。お前』
「…なんで?」
『お前が先に聞いたんじゃねぇか。なら先に答えろよ』
「…はは、何それ」
どんな理屈だよ。
呟いた声は、音にならずに零れて消えた。
…本物だ。
やっと聞けた。
1ヶ月ぶりの、先輩の声。
…電話越し、だったけど。
「…先輩」
『ん?』
「………」
…その次が、出てこない。
“寂しかった”と、口に出せたらどんなに楽だったか。
この1ヶ月、以前こっそり撮った先輩の動画を見て、気持ちを紛らわせていた。
それでもやっぱり、本人の声を、姿を見られないのは、なかなかにしんどかった。
携帯を持ったまま、窓のそばへ移動する。
…1年。
たった1年、遅く生まれただけなのに。
“社会人”と“高校生”では全然違う。
こんなにも、遠い。
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