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「俺・・・俺はもう・・・生きてる価値なんかない!!」
真っ赤な目と涙でグチャグチャになった顔が朝日を浴びてはっきりと視えてきた。
強い力を振り切れず、私はただ引っ張られるがまま・・・。
川に着くと、躊躇いもなくその中に入って行こうとするおじさんに一言。
「死ぬつもりですか?」
「そうだよ・・・お前も来い・・・俺と一緒に死んでくれ」
「私のお腹には赤ちゃんがいます」
「・・・え?」
おじさんは立ち止まった。
片足が冷たい水に冷やされていく。
「私はこの子を守りたい・・・この子の命を奪わないで下さい。お願いします」
「・・・じゃ、俺を殺してくれよ!・・・独りじゃ死ねない・・・自分じゃ死ねないんだ・・・」
おじさんがそう言った時だった。
川から沢山の手が出てきて、おじさんの頭や首や肩や、手や身体や脚を掴んだと思ったら、そのまま渓流の中に引き摺り込んだ。
目の前で、死者の手が彼を攫って行ったのを見て、私はへたりこんだ。
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