第6章 無限回廊6周目

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お母さんの意識が回復して、食事をとれるようになっているとえっちゃんが教えてくれた。 果物や焼き芋なんかを届けてくれるトシさんは、晴馬を励まし続けてくれた。 お爺ちゃんはずっとお母さんの付き添ってくれていると知って、安心する。 退院する前日になってから高橋さんが他の刑事さんと来て、事情聴取を始めた。 一人ずつ質問されたことに対して、ありのままに起きた事実を伝えるんだけど、長い長い夢を見ていた私にはそれがとても難しかった。 覚えていることを紙に書きだしていくけど、やっぱり私の記憶の情報量が多過ぎて一晩で経験したにしては無理がある内容だと言われてしまう。 でも、これが私にとってのこの事件の記憶だから。 こうして視てみると、あのおじさんが怯えていただけなのだとはっきりとわかる。 力が強いけれど、心は幼い子供と変わらない。 なんだか、涙が出てきてしまう。 「石で叩いた」ことは正当防衛として判断されるらしい。 これが致命傷になったとは考えにくい、とも言われた。 詳しい話はまた後日と言われ、退院してからも数人の警察の人がやってきて同じ質問をされて調書が出来ていったみたいだ。 私達は被害者で、命を奪われる直前で揉み合った結果、打ちどころが悪くて死んだ。 だから、これは事故のようなものだって、そんな判断が下されたようだ。 私は守られたのか。それとも自分で守ったのか。それさえも判断できないまま、元気を失った晴馬の心の闇と、お腹に宿り始めた小さな命だけが気がかりだった。
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