第6章 無限回廊6周目

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「怖かったのね・・・もう大丈夫。私が来たから、もう怖くないわ・・・」 男が驚愕した顔を私に向けて、言葉を失くして固まった。 ポロリと大きな涙を流して、私の広げた両手を見詰めている。 「抱きしめて」 私の言葉に弾かれたように、大男が私を引き上げて立ち上がらせてくれた。 そして、ギュッと強く抱きしめ合った。 この男が誰か、どんな人生を生きてきたか、誰を手にかけて殺したか。 それを考えたらきっと、こんな風に抱きしめることなんて無理だ。 でも、罪を犯す前は誰だって無垢な子供だったはず。 親に愛され、守られ、抱きしめられて、その小さな心は逞しく成長していくはずだった。 無条件にただ抱きしめて安心することができなかったのは、あなたの罪ではない。 誰かの罪でもない・・・。 差し伸べられた手を掴めなかったことは、罪ではないの。 足りないものが母性の愛ならば、私が彼を抱きしめてあげよう。 例え殺されても、彼に足りないものはきっと間違いなく愛情だとわかったから・・・。 少しでもその渇いた心が潤いますように。愛情を覚えてくれますように。 迷子を抱き上げるような気持ちで、目を閉じて呼吸と鼓動に焦点をあてた。 冷たい身体にすこしずつ体温が宿っていく。 この感覚は・・・かれんちゃんに初めて会った時のものにとても良く似ていた。 無償の愛だけが荒んだ魂を鎮めてくれる。 今はそれしか道が視えなくて、私は余計なことを考えずにただ身を預けてくれる大きな子供を包み込むつもりで抱擁していた。
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