1人が本棚に入れています
本棚に追加
「きつかった?」
「そりゃあ、ねっ。一介の文学少女、が、男子の全力疾走に、ついてっ、いけるとでも、思ってんのっ」
「怒んなって。俺全力疾走なんてしてないし。ていうかよく自分で少女だなんて言えるな」
「もう、おばか。そんなこと言ってたら、未来の彼女に叱られるぞぉ」
もういいや、とその場に座り込んだ。そうた君に手を引かれてやって来たのは、名前だけは知っているマンションの屋上だった。
こんなとこに簡単に忍び込めるなんて、防犯対策はどうなってるのだろう。
ばくばく暴れる心臓とぜいぜい苦しむ肺を抑え込んで、ついでに感情を殺して、あたしは口を開く。
「……で、そうた君。なんであたしをこんなところに連れてきたのかなー?だぁいぶもう暗いし遅いし、男と女が一対一なんて望ましくない時間帯だよ。わかってるでしょう」
「……とりあえず先輩に対してタメでためらいもなく話しかけてくるの、ちょっと狡くね?ずっとタメだと思ってた」
「あはぁ、バレちゃった?」
騙すつもりはなかったよー、と白々しく言葉を続けてみたら、わざわざ違う色のリボンを付けといてなに言ってるんだ、と返された。
うちの学校は女子はリボン、男子はネクタイの色が学年で違うのだ。
加那原颯太が我が文芸部部室に来るとナカちゃんに伝えられて、大急ぎで何代か上の先輩が置いていったリボンを探し出して首元に着けてなに食わぬ顔で笑ったあたしは、リボンをぶちりと外した。
最初のコメントを投稿しよう!