シャープペンシルと編み棒

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「先輩、知ってますぅ?あの子、最期にあたしに電話かけてきたんですよ。びっくりしちゃった。今から死ぬんだぁ、なんて言われて」 加那原先輩の隣を通り抜けて、屋上のフェンスの方へと向かう。フェンスの方。足場がなくなる方。さみしい方。死の方。 きっと茜が死んだ日だって世界は暗闇だった。 「ごめんねぇ、こんな電話かけられても困るだろうけどさ、ちょっと聞いてよ。今日はお兄ちゃんがオムライス作って待ってるんだって、今日はわたしの誕生日だから、マフラーと手袋を編んでくれたの。楽しみで、楽しみで、だから今日いまから死ぬの、って」 なんでこのマンションを茜が選んだのかは知らない。たぶん、この杜撰な防犯対策とあたしの胸くらいまでの高さしかないこのフェンスだから。 生と死とのあいだが、高さ一メートルのフェンスで分けられるとは思えないんだけど。 あたしは茜になにも聞けなかったし、なにも言えなかったのだ。 「もうおとうさんに殴られたくないなぁー……って、」 風が強い。ばたばたとあおられるスカートを無視して前髪を押さえた。かしゃかしゃフェンスが鳴る。 「でもお兄ちゃんには会いたいなぁ、絶対会わないんだけど。ね、会ってみたらきっといいよ、きっとあんた達気が合うと思う、って」
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