シャープペンシルと編み棒

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くるりと振り返って、加那原先輩の方を見て、笑ってみる。フェンスにもたれたら、かしゃん、と音がした。 聞いたことがある。茜との電話のときに、聞いた。 「まぁ――そんなこと言ったって、茜が死んだの、もう一年前ですしぃ……ある程度は落ち着いてきて、でもまだ生傷がありますよね。ちょっと引っかいたら血が流れちゃう」 例えばあたしが着信音が駄目になっちゃって、いまだにケータイを常にマナーモードにしてるとか。 加那原先輩がこのタイミングでマフラーをまた編んでるとか。 とっても痛い生傷、が。 あたしはようやっと出来た瘡蓋に爪を立てた。 「ねぇ先輩!なんで今更マフラーなんて編んじゃってるの!もうあの子死んだんだよ!先輩が!茜のお父さんから助けてあげなかったからでしょう!」 むちゃくちゃを言う。知ってる、知ってるよ、先輩が一生懸命茜を庇っていたのは、知ってる。 だって茜からしょっちゅうお兄ちゃんの自慢話をされてたのはあたしだもの。 「助けてあげてよ!なんで死なせちゃったの!あの子あんなにいい子だったじゃない!」 「おいっ、」 「あはは、止めます?」
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