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フェンスの上の、幅が数センチしかないフチに手をかけて飛び乗ってみたら、ずいぶんと焦った様子で加那原先輩がこちらに数歩近寄ってきた。
あたしは勢いよく脅す。
「ばかですか、加那原先輩。こういうときって大抵『近寄らないで!』って悲鳴あげるものですよ。もちろんあたしもあげます。近寄らないで!!」
ぴた、と足を止めた加那原先輩に、きゃははっ、と笑った。とっても素直で優しい人だと思う。茜が言った通りの、とっても、いい人。
なんてかなしいことだろう。踵を踏み潰したローファーがぱたんと落ちる。
「そーいえば、先輩、どうしてあたしがいっこ下ってわかったんですか?」
「……茜が、『とびっきり素敵な絶望を書くんだ』ってよく言ってる友達がいる、って言ってたから……なぁおい、そんなことよりこっち来いって。あぶないだろ」
「へぇ。茜、そんなこと言ってたんだ。あたしそんな口癖あったっけ……ああいや、昨日も言ってたか」
適当にうなずいてみる。もう片方のローファーも落ちた。前髪がばさばさとあおられる。流石にフェンスから手を離すのは怖いから出来ない。
ああ、嫌だなぁ。
「なあ、お前、そのおでこ」
「やっだなぁ、なんでそれ言いますかね!気付かないフリしてくださいよ」
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