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「ごめ」
ん、と先輩が言う前に。
「このままふわぁん、って落ちたら、」
柵から手を離す。
「あたしのおでこ焼いた煙草も、あたしの太ももをぶん殴った野球のバットも、許してくれるかなぁ。あたしは許せるかなぁ」
きっと綺麗だから、とあたしは言う。
「流れ星みたいで、落ちてく鳥みたいで、きっと綺麗だから――許して、くれる、んじゃないのかなぁ」
「ばっかお前!」
「来ないでってば!」
あーあ、やっちゃった、と思う。
柵から手を離してるのに、
大声なんか出しちゃっ、て。
さ、い、あ、く。
ふわぁん、と無重力、みたいな、地面に引きずる重力を感じる。
「ちょっ――ばか!だからあぶねぇって言ったんだよ!」
ぐいっ、と思わず先輩の方に伸ばしてしまった右手首を、先輩に引っ張られた。またみみず腫れのところを握られて痛みが走る。
腕が痙攣するみたいに震えた。
今度はフェンスの内側に体勢が崩れたところで、先輩に抱きとめられた。
「おい、このまま降りるぞ。……つべこべ言わない」
「……まだなにも言ってませんよぅ」
先輩に更に抱き寄せられて、とん、とつま先がコンクリートに当たる。靴下越しにひどく冷たいコンクリートが触れた。
あーもう、とあたしを抱きしめたまま先輩が小さな声で言う。
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