シャープペンシルと編み棒

17/21
前へ
/21ページ
次へ
「ごめ」 ん、と先輩が言う前に。 「このままふわぁん、って落ちたら、」 柵から手を離す。 「あたしのおでこ焼いた煙草も、あたしの太ももをぶん殴った野球のバットも、許してくれるかなぁ。あたしは許せるかなぁ」 きっと綺麗だから、とあたしは言う。 「流れ星みたいで、落ちてく鳥みたいで、きっと綺麗だから――許して、くれる、んじゃないのかなぁ」 「ばっかお前!」 「来ないでってば!」 あーあ、やっちゃった、と思う。 柵から手を離してるのに、 大声なんか出しちゃっ、て。 さ、い、あ、く。 ふわぁん、と無重力、みたいな、地面に引きずる重力を感じる。 「ちょっ――ばか!だからあぶねぇって言ったんだよ!」 ぐいっ、と思わず先輩の方に伸ばしてしまった右手首を、先輩に引っ張られた。またみみず腫れのところを握られて痛みが走る。 腕が痙攣するみたいに震えた。 今度はフェンスの内側に体勢が崩れたところで、先輩に抱きとめられた。 「おい、このまま降りるぞ。……つべこべ言わない」 「……まだなにも言ってませんよぅ」 先輩に更に抱き寄せられて、とん、とつま先がコンクリートに当たる。靴下越しにひどく冷たいコンクリートが触れた。 あーもう、とあたしを抱きしめたまま先輩が小さな声で言う。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加