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「――人は生まれた時に泣き叫びます。それはそれは、たいそううるさく泣き叫びます」
「……っ、」
優しくてとっても狡い人、とあたしは先輩への評価をすぐさま書き換える。
顔を上げたら、暗闇の中でぴかぴかと黒い瞳が見えた。
「きっとこの世の中の汚さとか、絶望とか、知るんだと思います。生まれた瞬間に。
ああああ、と泣き叫んで、最悪で絶望を感じて、安穏とした世界の終わりを、知って、でも私達は生まれた瞬間に泣き叫んだから、生きていく途中の絶望に泣くことを許されるんです。
――だっけ、ごめん、ちょっとうろ覚え」
「せん、ぱい、なんて、大嫌い!」
もおお、と叫ぶ。
「それっ!文芸部の部誌であたしが書いたやつ!」
「そうだよ、昨日お前が帰ってから部室にあったから読んだ。駄目だったか」
「別に、別にいいですけどぉ」
闇が落ちる。太陽のためのカーテンコールはない。太陽の代わりに太陽の光を反射する月が薄く笑っていて、星は都会のスモックに負ける。
世界の暗闇!
「そうです、部誌で書いたあれは、きっとあなたのために書いたんです。茜が死んでからはじめて書いた小説。痛々しい絶望に、茜のお兄さんが苦しんで欲しくなかったから、」
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