シャープペンシルと編み棒

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『最悪だ……この世の終わりだ……』 かつかつかつ、とシャープペンシルがルーズリーフを叩く。 沈黙や言葉を溜めていると示す三点リーダーの点を、あたしはルーズリーフに殴っているかのような強さで書いた。 最、悪、だ。 アナログな道具に頼って文字を書くと、デジタルでスピーディな社会に慣れたあたしはどうにも苛立ちを感じてしまう、らしい。 漢字が思い出せなくてイライラ。推敲でどんどん読みにくくなっていくルーズリーフにイライラ。自分の癖の強い文字にイライラ。 パソコンでかたかたと書けるという、気軽さ、に似た、堕落。 OGの先輩から譲り受けた愛用のノートパソコンをいつも繋いでいるコンセントには、スマートフォンの充電器が刺さっている。 「じゅーでん、終わってないよね」 くるり、とシャープペンシルを回して、あたしの座っている向かいに座っている人影に話しかけてみる。 黒い黒い、服。 学ランを着ているのは、今日突然、真っ赤な毛糸玉と編み棒を片手にやって来た、そうた君、という名前の男子だった。 たった二本の編み棒が赤い糸を絡めて布状にしていくのを、興味深くあたしは見守る。
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