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頬が切り裂けそうなほど冷たい風が吹いた。唇と口の中がかさかさに乾いている。つま先が凍る。倒れ込みそうだ。膝が震えた。
「でも!きっとそれは……それは、あたしに向けてだったんです。死なないように、うっかり自殺なんてしないように、自分への鎖を作ったんです――あなたを、借りて!」
魔法使いは自分を殺すか扉を壊すのかで迷っているのではない。自分を殺さないために扉にナイフを突き立てるという選択肢を作り上げて迷っているフリをしている。
だって、生きたい、ものね。
どんなに汚くなったって!
「あなたが、あなたの方がよっぽどつらいのに、先輩は今日も生きてるから――あたしは死ぬ訳にはいかない!あなたが死ねって言っても!死ねない!あなたの強さはそんなものに使うべきじゃないんだ!」
「ならあんたの人生だってそんなものに使うべきじゃねえだろ!」
頼むから、と先輩がちいさな声で言った。あたしの腕を掴む先輩の手も震えてることに今更気付く。
「頼むから……頼むから、そんなぐちゃぐちゃ言ってないで生きてくれよ――綺麗な死に方なんかじゃなくて、楽しく生きる方法を、探して、」
「だって、」
「それがあんたの人生の正しい使い方だ。つべこべ言わない、俺がいまそう決めたんだ」
「……先輩目付きわっる。こわぁい」
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