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「そうならまあ、いいけどさ」
「そうた君はなんでここに来たの」
ぱたん、と手から本が机に滑り落ちる。黒々としたそうた君の目がこちらをじぃっと見てくる。手首のみみずばれ。咄嗟にカーディガンの袖の中に手を引っ込めて、隠す。
「手芸部に、新入部員で、男子苦手ーっていう女子が入ってきちゃって。追い出された」
「うわぁ……なぁに、こういったらあれだけど面倒なのね」
「まぁ。どうしようもないし。新入部員って大事だろ」
「でも、この時期に、新入部員?」
外は夕暮れだ。恐らく身が切れそうなくらい冷たい木枯らしが吹いているだろう。そうた君は淡々とマフラー編んでいる。
「うん。なんでかな、理由は聞いてないんだけど。早々に追い出されたから」
「ふぅん……、」
ぽとん、と床にあたしのシューズが落ちた。
「だからナカちゃんがここに連れてきたんだ。大丈夫だよ、ここあたししか来ないし。あたし誰かいても平気だし。お話しするのも大好きだからねー」
「どうして本を読むんだ?」
「うん?」
机の上にだらしなく寝そべった。赤いマフラーと古い文庫本が視界に広がる。目を伏せる。幻影を追い出す。秋なんて嫌いだ。冬なんて嫌いだ。青アザはずきりと痛む。
「本を読む、理由?」
「そう……」
かちゃかちゃと編み棒が動く音がする。前髪を手ですいて、こつこつと机を爪で叩いた。テンポキープ。うっかり本当のことを口走らないように。
「理由、理由、ねー。そう、綺麗に死にたいんだよ」
にへら、と頬が弛緩する。やる気のない笑顔だよね、と友達に指摘されたことのあるあたしの笑顔。やる気のない、笑顔。生きていくことにやる気がないからいけないんだと思う。 そう言ったら友達もやる気なく笑った。
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