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勢いよく滑らかに嘘を言って廊下をばたばたと走り出す。あーあ、駄目だ、面白かったなぁ。門限に間に合わないや。
お父さんは帰ってきてるだろうか。遅ければいいけど、そんなラッキーはあたしにはないと知っている。
踵を踏みつぶしたローファーをつっかけて、あたしは目眩を堪えて帰路を走る。
*
今日こそはとパソコンの電源を付けてWordを開いた。
とりあえず決まっているのは一行目の絶望のセリフ。かたかたとキーボードを叩く。
「……最悪だ……この世の終わりだ……、か……」
主人公はうっかり世界を閉じ込める扉を開いてしまった魔法使い。扉の向こうに行ってしまった、時が止まっている彼がかつていた世界を窓から見て絶望をしている。
彼の手には一本のナイフ。
「……なぁんて」
ねっ、と勢いよく言ったら、からからと扉が開く音がした。椅子の背もたれに背中をあずけて仰け反る。世界の反転。
「おやあ、そうた君。こーんにーちは」
「はいはいこんにちは。今日も間借りしてもいい」
「いーよ」
どうぞ、と昨日と同じ椅子を示す。そうた君は鞄を床に置いて、中から赤い毛糸玉と二本の編み棒を取り出す。
ま、さ、か、
「今日も来るなんてねー。たいていみんな来なくなるのにな」
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