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「最近、塾に行くんは楽しい」 電車が大きく揺れ、俺は少々足元をもつれさせた。 どうして塾が楽しくなったのか。 その原因はすぐに分かったけど、俺も照れくさいから知らんふりをして、「ふうん、そうか」、とさらっと流す。 彼女も気恥ずかしいからそれ以上は触れたくないようで、急に巾着の紐などをいじくりだした。 「せやからな、かるたはもうええで。聞こえなくなるかもしれへんから、付き合ってくれてたんやろ。もう大丈夫やから」 「別に、それだけちゃうし」 俺は顔を膨らませた。 それなら何のためなのか、と聞き返されれば返事に窮するが、まぁ、いいじゃないか。かるたをやる理由なんて、好きだから、だけで十分なんだろ。 「覚えるって決めたんやから全部覚えたるわ」 「でも、この先もっと他に覚えなあかんことが増えてくるやろ。かるたなんて覚えている場合じゃ…」 彼女の不安はもっともだ。5年になってからの暗記量は4年と比較にならないほど増えた。この膨大な知識を6年の1月、受験の当日まで頭の端にとどめておくためには、余計な記憶などしている場合ではないのかもしれない。少し前までの俺なら、多分そう思っただろう。 でも、今は違う。 「ええねん。覚える」 俺は彼女の手から巾着を奪い取り、中の札を掴んだ。 「小学校の間に覚えられへんかったら、中学行ってからでも覚える。お前がS女子受かって、俺がN中行くなら、これからもずっと一緒にこの電車乗れるやろ」 「…」 俺の言葉に、返事は無かった。代わりに茹蛸かと見間違えるくらい、頬を赤く染める。 ああもう。だからさぁ、これは最初からの課題だけど、何かしゃべってくれないと、気まずくなるんだよっ!! 俺は少し高いところにある彼女の頭を、かるたの札ではたいてやった。 「あほやな、そこは『お前にN中なんて受かるんかい』、って突っ込むとこやで」
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