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え?
ずる休みの口実で使うには深刻過ぎる内容だったから、俺は目を見開き、改めて傍らの彼女を見つめ直した。その俯きがちな表情からはとても嘘をついているとは思えなかったし、そもそも、彼女は冗談を口にするような子ではなかった。
「元々な、左耳は全然聞こえへんねん。一側性難聴ていうんやけど」
「そうなん?」
耳が聞こえない。
彼女の言葉に、何故だか膝が震えた。耳なんて聞こえるのが当たり前だった。こんな身近なところに聞こえない人がいることを俺は想像したことも無い。
「片側だけ聞こえへんなんてことあるん?」
「反対側の耳が聞こえているから、周りの人は気付かへんけど、意外と多いみたいやで。そりゃ教室で座る席を左端にしてもらうくらいの配慮は必要やけど、基本的には暮らすのに不自由が無くて、今まで何も気にしてへんかったんやわ。どうせ治しようもないし」
「治されへんのや」
「うん、中耳炎と突発性難聴以外の難聴はどうしようもないんやって」
彼女はあっさり言うが、俺には信じられなかった。耳が聞こえないなんていう分かりやすい症状の一つも治せないなんて…現代医療は進歩しているんじゃないのかよ。
「それが、5年になってから、右までおかしくなってん。急に悪くなるなんておかしいし、この調子でどこまで悪くなるかも怖いから、先週、大学病院で左耳も含めて詳しくみてもらったんやけど」
彼女は小さく肩をすくめた。
「CT撮ったりいろいろやって。ほんで、眠らなあかん検査のところでなかなか眠られへんかったから予想以上に時間がかかってしもて」
それで塾へ行くのが間に合わなかったらしい。だが今はもう、そんなことどうでもいい。
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