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「これくらいの歳の女子には時々起こるんやって。でも検査で他の要因、例えば脳腫瘍とかそういうのを全部否定しないと判定できひんから、お医者さんも全部の結果が出るまでちゃんと説明してくれへんかったみたいで」
「…そうやったんや」
なんでもない。ちゃんと聞こえる。
その事実を前に、俺は思いっきり脱力してしまった。一方、彼女はすっかり恐縮しきっている。
「ごめんな。心配かけて。こんなにすぐ治るなら、何も言わんかったら良かったな」
「そんなことないで。俺、耳の事をこんなに考えたことなかったから。この前なんか、聴導犬の活動に小遣い寄付したで」
「あ、それは私もやった」
耳が不自由になることに対して、自分に何ができるか、と考えたら行きつく先は一緒だったようで、二人で声をそろえて笑った。笑っているうちに、俄然うれしさが込み上げてきた。
「それで、ストレスって何やったん?それが無くなったから治ったんやんな?」
「何やろ。はっきりとは自分でも分からへんねんけど」
前置きした上で彼女は言った。
「5年になって急に勉強が難しくなって、毎月のテストが不安やったことかな。結果をみんなに見られるから恥ずかしいやんか」
俺は吉本の芸人張りにずっこけた。
「ちょい待ち。そんなん、偏差値50台の俺ならともかく、あの点数のどこが恥ずかしいねん」
「だって、それが悪くなったら恥ずかしいやんか」
うう…賢い人の感覚はよく分からん。
「ほな、今は恥ずかしくなくなったんやな」
「恥ずかしいのは恥ずかしいままやけど」
彼女はぽりぽりと鼻の脇を掻いた。
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