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「でも、これなんか、さっきの授業でやった阿倍仲麻呂の歌やで」 彼女は『みかさのやまにいてしつきかも』と書かれた札をひょいと引き抜いてみせた。 「教科書にも載ってたやろ」 「そういえばあったな」 数時間前に社会の先生が言っていた。「阿部ちゃうで、阿倍。あばいなかまろ、って覚えとけ。ちなみに来週やるけど、陰陽師で有名な安倍晴明と今の首相は安倍、やからな。こっちは、やすばい。間違えるなよ」 黒板中にいろんな『あべ』の字が並んで、頭が痛くなったっけ。 彼女はまた他の札をめくった。 「これは天智天皇やし」 「テンチ?誰やったっけ?」 「ほら、大化の改新やった人。中大兄皇子」 「あぁそうか。蒸し殺された大化の改新」 「そうそう。649年」 顔を見合わせ、互いに笑みがこぼれた。 あ。なんか今、初めて彼女との会話が噛み合った気がする。 これって、なんだろ。今までダメダメだっただけに、すっげぇ嬉しい。 そうか、かるたか… 想像もしなかった村上さん攻略法が浮かんできて、俺の頭は急速回転をし始めた。でも、かるたなんて、どうやって使えばいいんだ?
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