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「いやぁ。今日の授業は最高におもろかったなぁ」 翌週の土曜日、中百舌鳥駅でホームへの階段を下りながら、俺は笑いが止まらなかった。彼女はその後ろから恨めし気な顔をしてついてくる。 社会の授業中、先生が紫式部の名を口にした瞬間に、はい、と手を挙げて和歌を暗唱してみせたのだ。 「めぐり逢ひて見しやそれともわかぬまに雲がくれにし夜半の月かな」 みんなはあっけにとられて口をぽかんと開けるし、先生は「お前、そんなん覚えてるんか」と目を丸くするし、とにかくその場にいた全員の度肝を抜くことに成功した。そして、「次の清少納言は村上さんが言います」 無理無理無理無理無理無理無理 こんな時でも声を上げないのが彼女らしい。無茶振りをした俺に向かって、首を強く横に振り、口パクで拒否を伝えてきたが、でも俺は知っている。彼女は断れないタイプなのだ。 結局、先生からも改めて促されたから、「夜をこめて鳥のそらねははかるともよに逢坂の関はゆるさじ」、と普段よりずっと小さな声で言ってくれた。 「あんなん、あかんて。恥ずかしいやん。なんの事だか誰も意味分かってへんし」 電車に乗ってからも彼女はまだ口を尖らせていたけど、俺は大満足だった。あのおとなしくて賢い村上さんをテンバらせてやったのだ。こんなに楽しい事は無い。
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