エピローグ

1/1
1848人が本棚に入れています
本棚に追加
/204ページ

エピローグ

 後日、郵送で手紙が届いた。差出人の名前はなかったが、表書きには「遺書」と書かれていた。おそらく、美奈が書いたものだろう。  晃はそれをそっと引き出しにしまった。いつか心構えができたら読むのだそうだ。 佳代子のくれたクッキーは、三澤出版のみんなで分けた。河崎さんはそのクッキーをいたく気に入り、わざわざ店まで買いに行った。  河原さんはおみやげだと言って、私にクッキーを手渡し、 「あの、結婚式場にきてた、綺麗な女の子がいたよ」 「佳代子さんですか?」 「ああ、多分その子。売り子さんしてた」  今度、お店に行ってみようか。イヤそうな顔をされるかもしれないけど。 晃がコーヒーを一口飲み、言う。 「なあ、次の休み、またお父さんとこ行こう。本返すから」  晃の言葉に、私ははい、と頷いた。 「ついでに、紅葉デートもしよ」 「そっちが主目的なんじゃないですか?」 ばれたか、と言って晃が笑う。 「今日の晩飯、なに?」 「マーボー豆腐です」  人生は、晴れの日ばかりじゃない。雨の中でも、生きていかないといけない。  晃がただの上司だったころ、キライで、苦しくて、ドキドキして、たくさん振り回されてきた。  今だって、嫌なところはあるけど、これからも、喧嘩して、仲直りして、どんな時も一緒に乗り越え、生きていく。  私のキライな夫は、マーボー豆腐すき、と言って笑った。   私のキライな上司/終わり
/204ページ

最初のコメントを投稿しよう!