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エピローグ
後日、郵送で手紙が届いた。差出人の名前はなかったが、表書きには「遺書」と書かれていた。おそらく、美奈が書いたものだろう。
晃はそれをそっと引き出しにしまった。いつか心構えができたら読むのだそうだ。 佳代子のくれたクッキーは、三澤出版のみんなで分けた。河崎さんはそのクッキーをいたく気に入り、わざわざ店まで買いに行った。
河原さんはおみやげだと言って、私にクッキーを手渡し、
「あの、結婚式場にきてた、綺麗な女の子がいたよ」
「佳代子さんですか?」
「ああ、多分その子。売り子さんしてた」
今度、お店に行ってみようか。イヤそうな顔をされるかもしれないけど。 晃がコーヒーを一口飲み、言う。
「なあ、次の休み、またお父さんとこ行こう。本返すから」
晃の言葉に、私ははい、と頷いた。
「ついでに、紅葉デートもしよ」
「そっちが主目的なんじゃないですか?」
ばれたか、と言って晃が笑う。
「今日の晩飯、なに?」
「マーボー豆腐です」
人生は、晴れの日ばかりじゃない。雨の中でも、生きていかないといけない。
晃がただの上司だったころ、キライで、苦しくて、ドキドキして、たくさん振り回されてきた。
今だって、嫌なところはあるけど、これからも、喧嘩して、仲直りして、どんな時も一緒に乗り越え、生きていく。
私のキライな夫は、マーボー豆腐すき、と言って笑った。
私のキライな上司/終わり
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