初めて編(1)

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初めて編(1)

三澤晃(みさわあきら)は、有名な雑誌記者、だそうだ。雑誌を売るためならなんでもする。だからかつては、鬼だの悪魔だの言われていたのだそうだ。  伝聞なのは、私がさして三澤のことをしらないせいだが、実際に、彼は私が今まで会った中で、一番尊敬できない人間だ。 「おい原田。なんだこの記事。こんなんじゃムラムラこねーよ、書き直せ」  三澤が原稿を私のデスクに放った。切れ長の瞳と長い手足。黙っていたら素敵なのかもしれないが、彼が黙っていたことはない。  あんたをムラムラさせるために書いてんじゃないけどねっ。  私は内心そう思いながら、無言で原稿を引き上げる。彼は、私を擦り切れた座布団でも眺めるような目で見下ろし、 「っていうか、今日も超貧乳だな」  それは関係ないでしょ! 反論したいが、こてんぱんにされるから黙っておく。彼に泣かされて辞めた新人は山ほどいる。セクハラにパワハラ。人権侵害にもほどがあることばっかり発言するためだ。  ちなみに、今私が組んでいるのは素人体験談の記事だ。ネットやなんかでよく見かけると思う。嘘だろ! と叫びたくなるような、実にありえない体験談。     
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