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初めて編(2)
★
かわいいな。それだけならまあ、わかる。上司が部下にいう台詞ではないけど。だが、あのキスはなんなのだ。
私は悶々としながら、手にした雑誌越しにちらりと三澤を見た。あの後、タクシーに三澤を放り込み、一人で帰宅したのだけど……寝不足です、ハイ。
何やらスマホを操作していた三澤が、切れ長の瞳をこちらに向けてくる。
どきりとして目をそらしたら、彼がこちらへやってきた。椅子に肘をかけ、背後から身を寄せてきた。私は反射的に身を縮める。
「なあ、おまえついったーやってんだろ」
「や、やってますけど」
「どうやんの。教えて」
「お金払ったら、教えてもいいですよ」
「はあ? 生意気だな、貧乳のくせに」
貧乳は関係ないだろう。私はむっとしつつ、スマホに指を滑らせる。
「これでツイートできて……」
「写真は?」
「これを押すと載せられます」
三澤は私の方に顔を寄せ、画面を覗き込んでいる。近いし。っていうかこの人、まつげ長いな……。手が触れ合い、どきっと心臓が鳴った。私は誤魔化すように口を開く。
「つ、ツイッター、始めるんですか? 嫌いとか言ってたのに」
飯を撮るやつが嫌いなのだ、と三澤が言った。
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