1514人が本棚に入れています
本棚に追加
「えーと、抹茶アイスと、バニラアイスと……マロンと……チーズケーキと……」
原宿に着いて竹下通りを下(くだ)り、俺たちは早速クレープ屋に並んだ。
約束通り、あれもこれもと欲張ってトッピングを迷っていたら、横から綾人が店員に声をかけた。
「甘いものを全部トッピングって、出来るか?」
そんな無理難題、って俺はギョッとしたけど、店員は涼しい顔で答えた。
「出来ますよ」
「四季、それにしろ。ケチな事は言わない」
確かに、エリートの綾人からしたら、些細な出費だろう。
「ただ、かなり量がありますが、お腹の方は大丈夫ですか」
時刻は十二時過ぎ。朝飯を食べてこなかった俺の腹は、さっきからグウグウ鳴ってた。
「あ、はい。大丈夫です」
「混ぜると苦くなる組み合わせもありますが、どうしますか」
「その辺は任せるから、甘いの作ってやってくれ」
「畏まりました」
店員は俺と大して変わらない歳くらいの、金髪の女子だったけど、全部乗せを作る手さばきはプロだった。
特に、四種類のアイスをきっちりあの薄い皮の中に収めて巻き上げる様は、芸術的とさえ思った。
プラスチックのスプーンが添えられて、「どうぞ」と差し出されたそれは、片手ではバランスを取るのが難しいほど大きい。
男の俺の両手の中に、スッポリと収まるくらい。綾人が訊いたら、計二十一種類のトッピングだった。
綾人は、昼飯に、おかず系のツナマヨを頼んでる。
「全部食べられるか? 残しても良いんだぞ」
フードコートに座って、全部乗せを前に息巻く俺を見て、綾人が笑う。
「ぜってぇ、全部食う。多分もう二度と、全部乗せなんて出来ねぇから!」
「いつでも買ってやるぞ」
「いつでもは無理だ! でも今は、腹減ってるから食える!」
綾人は薄いツナマヨを、サクサク食べ進めて、ものの五分で完食した。
俺はといえば、四種のアイスに苦戦してた。甘ったるくて、気分が悪くなってきた頃、綾人がいつの間に注文したのか、スッとコーヒーを差し出してくれる。
綾人やっぱ、タイミング完璧。
感動して、礼を言って、またクレープに取りかかる。
そんな俺を、綾人は優しい眼差しで見詰めてた。
最初のコメントを投稿しよう!