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「美味しいか?」
「美味ぇ! マンゴー最高。初めて食った」
「四季は、マンゴーが好きなのか?」
「食うのは今日が初めてだけど、ずっと食ってみたかった。想像以上に美味ぇ!」
「そうか。じゃあ、実家から送って貰うか。宮崎は、マンゴーの名産地だ」
「えっ。いや、そこまでしねぇで良いよ」
綾人は人差し指で、俺の唇の端から生クリームを掬い取ると、そのままパクリと自分の口に運んで笑う。
「遠慮はしなくていい。俺が金を払って、マンゴーを買って貰うんだから。本場の完熟マンゴーを、四季に食べさせてやりたい」
「う……うん。じゃあ、機会があったら食う」
「その前にまず、目の前のものを食べないとな」
「うっ」
結局、綾人にも少し手伝って貰って、何とか『クレープ甘いの全部乗せ』は食べきった。
憧れの、原宿でクレープ。愛しい人と。
万が一、時季外れの発情期になる危険性を考えて、両親は俺の行動範囲を厳しく制限してきた。
修学旅行も。中学の修学旅行で、原宿でクレープを食べた事を楽しげに話すみんなを見て、何で俺だけ、何でこんな風に生んだんだって、母さんに食ってかかった事もあった。
でも今は、この幸せを両親に感謝したい。
「腹は膨れたな?」
「うん。パツンパツン」
「よろしい。では、映画を観に行こう」
「何処行くんだ?」
「新宿だ」
「新宿って、ビルばっかじゃねぇの?」
「そのビルの中に、映画館があるんだ」
「俺、映画館行ったら、夢がある」
「何だ? 何でも言ってみろ」
「ポップコーンが食いてぇ!」
「良い夢だけど、その腹で、入るのか?」
綾人がちょっと噴き出しながら、可笑しそうに言う。
「ポップコーンは、別腹だ」
上映まで少し時間があったから、緑の溢れる原宿から代々木までのんびり一駅歩いて、腹ごなししてから俺たちは映画館に向かった。
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