第40話 クレープ

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「美味しいか?」 「美味ぇ! マンゴー最高。初めて食った」 「四季は、マンゴーが好きなのか?」 「食うのは今日が初めてだけど、ずっと食ってみたかった。想像以上に美味ぇ!」 「そうか。じゃあ、実家から送って貰うか。宮崎は、マンゴーの名産地だ」 「えっ。いや、そこまでしねぇで良いよ」  綾人は人差し指で、俺の唇の端から生クリームを掬い取ると、そのままパクリと自分の口に運んで笑う。 「遠慮はしなくていい。俺が金を払って、マンゴーを買って貰うんだから。本場の完熟マンゴーを、四季に食べさせてやりたい」 「う……うん。じゃあ、機会があったら食う」 「その前にまず、目の前のものを食べないとな」 「うっ」  結局、綾人にも少し手伝って貰って、何とか『クレープ甘いの全部乗せ』は食べきった。  憧れの、原宿でクレープ。愛しい人と。  万が一、時季外れの発情期になる危険性を考えて、両親は俺の行動範囲を厳しく制限してきた。  修学旅行も。中学の修学旅行で、原宿でクレープを食べた事を楽しげに話すみんなを見て、何で俺だけ、何でこんな風に生んだんだって、母さんに食ってかかった事もあった。  でも今は、この幸せを両親に感謝したい。 「腹は膨れたな?」 「うん。パツンパツン」 「よろしい。では、映画を観に行こう」 「何処行くんだ?」 「新宿だ」 「新宿って、ビルばっかじゃねぇの?」 「そのビルの中に、映画館があるんだ」 「俺、映画館行ったら、夢がある」 「何だ? 何でも言ってみろ」 「ポップコーンが食いてぇ!」 「良い夢だけど、その腹で、入るのか?」  綾人がちょっと噴き出しながら、可笑しそうに言う。 「ポップコーンは、別腹だ」  上映まで少し時間があったから、緑の溢れる原宿から代々木までのんびり一駅歩いて、腹ごなししてから俺たちは映画館に向かった。
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