第41話 映画

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 確かに二人の人物が言い争っているのに、スクリーンには一人しか映っていない。  『ツキ』が、着ている胸元の大きく開いた赤いドレスを破こうとしたり、自分で自分の首を締めたりする、戦慄の光景だった。  最後に、血塗れのナイフを握り締めた手だけが映る。 『さよなら。アタシ……』  暗転して、タイトルが出る。『ボクとアタシの秘密の蜜月』。  凄い。面白そうだ。シィも出てるし、主役も色っぽい。  また、観に来よう。綾人と二人で。  心の中でそう思って、今の幸せを噛み締めた。  本編が始まる。  『狼少年と暁の姫君』は、少年誌で連載してる、アクションと恋愛ものが融合した物語だ。  毎日、身動ぐのも激痛なほどの傷を負いながら、一人の少年兵が、「貴方のお陰で、この国は平和です」と優しい嘘を吐く。  でも嘘がバレて姫君は嘆き悲しみ、側近たちは少年兵を死刑にしようとする。  ところが姫君はそれを止め、少年兵に「私に剣を教えてください」と頼み、共に戦場で戦うようになる。  この少年兵役が、シィだ。凄い。主役だ。  でも漫画で読んだから話は知ってる筈なのに、内容はちっとも頭に入ってこなかった。  俺が抱えてるポップコーンを綾人が手探りで食べようとして、二の腕や胸の辺りに、何回もタッチされるからだ。  特に、ピンポイントに乳首に指が触れた時なんかは、ビクッと肩が跳ねてしまう。  綾人は映画に集中してて、気付いてない。  俺はさり気なく箱ごと綾人に差し出して、持ってくれるよう頼み、何とか声を漏らさずに済んだ。  映画を観終わったら、デートは終わりだと思ってた。  だけど綾人は、俺と指を絡めると、駅とは逆方向に向かって歩き出した。 「綾人? そっちじゃねぇぞ?」 「良いんだ」  後を着いていくと、見覚えのある黒い高級車が、路肩に停まってた。 「四季。俺も行きたい場所があるんだ。付き合ってくれるか?」 「うん。良いけど」  軽い気持ちでそう言って、俺は革張りの助手席に乗り込んだ。
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