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「階段が七段ある」
「うん」
数えながら上って、ドアの開く音がした。足元は、絨毯の感触。
「まだか?」
「もうちょっとだ」
話すと、声が反響する。ホールみたいな所だと、検討はついた。
一歩一歩、綾人に引かれて歩く。目を瞑って歩くのは、意外と恐い。
やがて立ち止まり、衣擦れの音が微かにして、綾人が言った。
「もう開けても良いぞ」
「……わぁ」
まず目に飛び込んできた、色鮮やかなステンドグラスに感動する。夕焼けの陽射しが、色合いを絶妙に柔らかくして、赤い絨毯の上に光を投げかけていた。
「綺麗だな」
横に立ってる筈の綾人を見るけど、綾人は何故か片膝をついて下から俺を見上げてた。
手には、ベルベットの蒼い小箱。
「お前の方が綺麗だ。四季、結婚してくれるか?」
小箱が開かれると、見た事もない大きさの、仄かにピンクがかった宝石が現れた。
これ、婚約指輪? 夢なら、覚めないで欲しい。
「四季、返事は?」
呆然としていると、綾人に急かされた。
俺は発情期の不安定さで、ボロボロと涙を零し始める。
「っく……はい」
「ああ……泣くな、四季。笑ってくれ」
綾人が立ち上がり、指輪を取り出して、スマートに俺の左薬指に通す。
大き過ぎる事も小さ過ぎる事もなく、ピッタリと嵌まり、それは夕陽を反射してキラキラと輝いた。
「な、んで……ピッタリ」
「四季が俺の部屋で寝てた時、サイズを計らせて貰った」
「これ、ローズクォーツ?」
十月の誕生石がローズクォーツだっていうのは、何かの時母さんに教えられて知ってたから、訊いてみる。
「いや。ピンクダイヤだ」
「ピンクダイヤ? ダイヤなのに、ピンクなのか?」
「ああ。ピンクダイヤには、『完結された愛』という意味がある。婚約指輪を贈るなら、ピンクダイヤにしようと決めていた」
俺のまだ未発達な細い指の上で、雫型にカットされたピンクダイヤは、夢幻(ゆめまぼろし)みたいにさんざめく。
消えてしまわないように、俺はキュッと左手を握り締めて、上から右掌で覆った。
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