第1話 転校生

2/3
1505人が本棚に入れています
本棚に追加
/166ページ
 この世界は、α(アルファ)とβ(ベータ)とΩ(オメガ)で出来てる。  生まれながらにエリート街道が約束されたαや、人口の大多数を占める日本人の大好きな『普通』のβにはさして意識するほどの事でもないだろうけど、俺たちΩにとっては、この世界はけして優しくはなかった。  今日も寝坊した。二学期の初め、転校初日だったけど、ワクワクもドキドキも、期待に胸を膨らませる事もない。何故なら、高校三年生にして、もう七度目の転校だったから。    βの両親から生まれてしまったΩの一人息子の行く末を心配して、若かった父さんと母さんは、一つの罪を犯した。  小学校に入る時に義務付けられている血液検査前に、念の為αの親族の病院で俺の血液検査をし、正式な検査日に俺の血液と父さんの血液をすり替えるという罪を。  従って俺は戸籍上、β籍になっている。  後は、一度吐(つ)いてしまった嘘がバレないよう、嘘を上塗りするばかりだった。  俺がΩとバレそうになる度に転校を繰り返し、北海道の片田舎で生まれた筈の俺は、流れ流れていつの間にか、東京の一大エスカレーター式私立校、小鳥遊(たかなし)学園に通う事になっていた。    田舎は娯楽が少ないから、人は口さがない噂話に尾ひれをつける。  その点、東京は個人主義で他人にあまり興味がないだろうから、という父さんの提案だった。  転校に慣れてしまっていた俺は、次の行き先が何処だろうと、もうどうでも良かった。  そんな、転校初日。  もうとっくに一時限目が始まってる頃、俺は急ぎもせずにのんびりと、スラックスのポケットに両手を突っ込んで、通学路を歩いてた。  初めてのブレザー。深くて上品なワインレッドのジャケットに、グレーのスラックス。三年生は、ブラックとホワイトの斜めストライプのネクタイ。  東京は田舎もんの集まりだから、気後れしないで胸張って行けって、昨日の夕食の時に父さんが言ってたけど、でも訛りとかはやっぱ気になるだろうなあ。  『なまら』とか『したっけ』とか言わないようにしなくちゃな。  注目されればされるほど、Ωとバレそうになる確率は高い。  校門が見えるくらいの所まで来ると、不意に国産の黒光りする高級車が、何故かスッと俺の隣に横付けされた。  何だ? まさか、ナンパ? 誘拐?  『東京』にまだ偏見のある俺は、そんな風に思って車からサッと距離を取った。
/166ページ

最初のコメントを投稿しよう!