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その時を境に世界が変わったように思えた。
小窓から見た景色は、さっき見たのとだいぶ違う。
早くしろと催促していたヴィットは、両の足と左腕で意味もなく地面を引っ掻いたり、蹴ったりしている。
右の首元から脇腹にかけて、黒い焦げ目を残しポッカリと穴が空いている。
顔は…見ようとは思えない。
エリス先生が何か言ってるみたいだけど、けたたましい警報の音と悲鳴に掻き消されよくわからない。
熱を帯びた明かりが目を焼く。
未だに何が起きたのかはわからない。
けど、きっと俺の所為ではない。
それでも、足が震えて、汗が出て、歯が鳴る。
小窓の外の世界から逃げるように目を閉じ、両手で頭を抱えて股の間に頭をねじ込む。
目が合った。
『どうするの?』
深く青い光を放つそれは、口もないのに話し始めた。
『敵兵は割と近いみたいだけど、やるの、やらないの?』
幼い少女のような声、ハキハキと喋るそれの問いに何も答えられない。でも、目を離せない。
『時間無いぞ?…………、あぁ~、もう。イライラすんな、二択だ答えろ。』
不思議だった、警報の音も、悲鳴も、暑さも消えて。頭の中から無駄なものが全て消えたような清々しさを覚えた。あるのは自分と、目の前の深く青い光。
『生きたいか?』
『…はい』
口は自然と動いてた。
答えると同時に足は震えを止めて、ガタガタと鳴っていた口は意図せず笑みを浮かべ、全身が熱くなる。不安に駆られた思考は無駄な事はせずにただひたすらに【生きる】事のみを求める。
『準備はいいな?前を見ろ、ハンドルを握れ、生きる為にあたしに出来ることは少ない、だから自分でやるんだ!言い訳は認められない、分かったな!!』
顔を上げ、小窓から再び外の世界を見る。
いつから居たのか、軍の機兵が銃口を向け取り囲んでいる。
怖い…とは思わない、体が更に熱くなる、根拠の無い自信ができると言っている、その言葉に従って足を踏み込んだ。
俺の動きに合わせるように、精機兵の足が一歩踏み出したのを感じる。
そして、世界は姿を変えた。
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