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『あづい゛……。』
耐えかねたヴィットが、やっと口を開けたと思えば普段と変わらない愚痴だった。
日の光から逃げるように木陰にあるベンチからはみ出した足を投げ出すように倒れこみ、右腕で更に逃げるように目を覆い隠している。
実にだらし無いが、気持ちは分からなくもない。
夏に入り、梅雨が明けた頃から日に日に気温は上がり続け今日の昼休み、つまり現在では35度を超えたと言う。
食べ終えた弁当を袋にしまい、汗ばんだ手をズボンで拭って、機兵工学基礎の参考書を開く。
『お前、食わないと昼休み終わるぞ』
『暑すぎて食欲ねぇわ』
『……。』
冷房の効いた教室で弁当箱を開けようとした俺に
『こんな天気のいい日に、こんな狭っ苦しい場所でメシを食うなんて…ナンセンスだ!!』
っと、ひたいに手を当て見下すように言ってきた彼は死んだらしい。
正直、俺には5限目に最前列で隠れたつもりの奴が弁当を食らっているのが思い浮かべられる。
『テオは機大付属行って、軍にでも入んの?』
『そのつもり、まぁ、俺はエンジニアだから機兵団とかに入るつもりは無いけどね。』
『いいなぁ、進路決まってて…、俺ももう少し脳みそ詰まってればなぁ』
『少し?少しじゃ足りないだろ』
『後でしばく』
『でもお前、本当にどうすんの?親父のコネで機兵団にでも入んの?』
『それも悪くはねぇとも思う。でも、青春をまだ味わって無いのが心残りどぅぶぉ!』
とりあえず、機兵工学の参考書で腹を殴っておいた。多分3キロくらいはあるだろう。
長身なヴィットの体はキレイな海老反りを見せ、跳ね上がった衝撃で地面へと転げ落ちた。
『この前も後輩の告白断ってた奴の口から出る台詞か?それが…。』
悶え苦しむダンゴムシのような奴を横目に、俺は教室へと戻った。
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