稲《いな》本《もと》団《だん》地《ち》四街区F棟504号室

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稲《いな》本《もと》団《だん》地《ち》四街区F棟504号室

「イヤッ、 ぜったいにイヤ!」  (しん)(とう)(あか)()は珍しく大声を出した。 「わがままを言わないで、 お父さんだって辛いんだから、 ね?」  母の(はる)()が優しく諭す。 それでも朱理は納得せず、 イヤを繰 り返す。 「おばあちゃんが、 かわいそうだよ……」  祖母が亡くなったのは一年ほど前、 朱理が小学三年生の時だ。 彼女は稲本団 地四街区F棟の404号室に住んでいた。 朱理たちが住んでいる部屋のすぐ下 の階だ。  父の(ひで)(あき)は実家を出ていたが、 朱理が生まれたのを切っ掛 けに稲本団地に引っ越した。 決断した要因には、 この504号室が空室になっ たのも大きい。  五歳の時に妹の紫織が生まれると母が多忙になり、 朱理の面倒は祖母が見て くれた。 そのため、 彼女はすっかりおばあちゃん子になった。  祖母が居なくなっても、 辛い時、 悲しい時、 そして淋しい時、 彼女は404 号室に行った。 そこに居ると、 祖母を近くに感じられるからだ。  朱理にとって、 彼女はまだ404号室に居る。 それなのに、 部屋を解約して しまったら祖母はどうなるのか。 「お父さんも同じ気持ちだよ。 高校を卒業するまで、 おばあちゃんの部屋に住     
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