STORY 《Ⅰ》-one-マイクver.

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『生きる』ことが楽しい。 順風満帆な人生なんてナイ。 傷も苦しみも後悔もたくさんあって。でも、それらが人生を深めていってくれる。それらと共存してるからこそ俺は断言できる。 俺は『幸せ』や。 そう心から思える自分が好っきやなって思う。 ビルの三階にあるスタジオ。カメラのシャッター音が響く中、そんな風なことをぼんやりと考えていた。 そこにスタジオの扉が開いて事務スタッフの女の子がひょこりと顔を出す。そして、俺を見付けるとちょいちょいと手招きしてくるので俺はカメラマンの北村さんに断りを入れてから、事務スタッフへと近付いた。 「撮影中にすみません。五木さんが呼んではります」 そう言って一枚の書類を渡される。それを一瞥してから「面接?」と確認すると、こくりと頷くスタッフ。 「わかった。もうちょいで撮影終わるから、終わったら事務所に行くわ」 「宜しくお願いします」と頭を下げてからスタッフが扉を閉める。 俺が北村さんの傍に戻ったら、ファインダーから目線を外して「カテキョの仕事?」と尋ねられたので、「そうっす」と肯定した。 「それやったらもう撮影から外れて大丈夫やで。もう終わりやし。片付けは俺しとくわ」 そう言ってくれたので俺はその好意に甘えてお礼を言ってから二階の事務所へと降りた。 事務所に入る前に依頼人の『タナカ ユーキ』のプロフィールと要望に目を通す。 プロフィールと言っても、最初の電話対応で聞いた内容やから、名前と性別と家庭教師の要望しか記載はない。でも、細かくビッシリと五木による性格分析が書かれている。 五木はカウンセラーの資格を持っている。だからこそ電話対応のときに気付いた細かい性格などが事前にわかるんやけど。
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