STORY 《Ⅰ》-one-マイクver.

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曲が終わり、また別の洋楽のインストが流れる。今度はアップテンポの陽気な曲。 ユーキはその曲には興味を示さず、俺を見ていた両目はストローへ。でも、コーヒーを飲むわけでもなく、ただうつむいている。 「さっきの歌、好きなん?」 小さく頷く。ますますうつむいてしまったので、ユーキの表情は見えない。 どうしたものかと考えあぐねていると、ポタリとテーブルに滴が一滴、二滴。 長い黒髪の中でユーキは声を殺して泣いていた。 流れる陽気な曲。ガラスに遮られ遠くから聞こえるざわめき。誰かがコーヒーカップをカチンと鳴らす。 俺の脳裏に色々な選択肢と欲望が表れる。慰めたい。抱き締めたい。その涙を拭き取り、笑顔にしたい。でも、俺は。 ユーキの真ん丸な頭をぽんぽんと軽く撫でるけど、すぐに手を下ろして「最初のトライアルはさっきの洋楽の翻訳にしよか?」 涙の理由を聞く訳でもなく、直接的な慰めの言葉をかける訳でもなく。ごく普通の声で普通の会話を選択した。 ユーキは少しだけ鼻をすすってから小さな声で「はい」と返事をする。 さっと涙をふいて、バニラアイスが盛大に溶けたコーヒーを飲みきると、やっぱり小さな声で。 「さっきの曲の題名を教えてください」 そう質問されたけど、俺は少しだけ考えてから。 「次回のトライアルまでお預けや」 とニコリと笑ってかわした。 その後すぐにカフェを出て、最寄り駅へと向かうユーキの後ろ姿を見送った。 情緒不安定でコミュ症気味な、でも晴れの笑顔を浮かべることができる、不思議な女の子に、俺の好奇心を最大の力で刺激された時間だった。
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