STORY 《Ⅰ》-two-ユーキver.

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ユニットバスの狭い洗面所で髪の毛をドライヤーで乾かす。 「やっぱり短いと乾くのが早い」 背中まであった髪は、昨日のレッスン後に美容室に行って切ってみた。 本当は五木さんみたいなショートに憧れはあったのだけど、さすがに自信がなくて長めのボブ。全体的に緩くパーマを当てたので、ドライヤーでとかしているだけなのに自然と内向きに髪の毛が巻いていく。 「セットするのがすごい楽!」 日本語で独り言を呟いた後、最近の習慣で。 「Easy to set hair……で合ってるかな?」 同じ内容を英語で呟いた。 そして、クローゼットを開け、最近増え始めた淡い色合いの洋服の中から、グレーのタンクトップ、その上にシースルー素材のシャツを着て、膝上丈のショートパンツを選んだ。 薄いピンクのリップを塗り、少し重いリュックを背負い、玄関の鍵を閉めて、今日の待ち合わせ場所へと向かう。 最寄りの駅まで歩いていると、じわりと汗が吹き出してくる。日差しが暑い。でも真夏にしては心地よい風が吹いていた。 寒いくらいに冷房がきいた電車に乗る。 段々と車窓風景がごちゃごちゃした街並みへと変化していき、私は思わず思い出し笑いを浮かべる。 2回目のトライアルは原則、会社かカフェでの授業のはずが、街中に出て歩きながらの授業だった。 マイクは目につく様々な物を指差して英語で言っていった。 真っ赤な郵便ポストを指差して「That is a post」 ビルの合間から見える空を指差して「That is the blue sky」 そして時々私に問い掛ける。 「What color is that?(あれは何色?)」 郵便ポストは「レッド」、青空は「ブルー」たどたどしくカタカナ英語で答える私に。 「Great!nice answer!」 と満面の笑顔を向けてくる。
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