STORY 《Ⅰ》-two-ユーキver.

5/27
前へ
/155ページ
次へ
沢山の人々が歩いている中、少しはしゃぎながらの会話は本当は恥ずかしかった。 でも、私のつたない英語に満面の笑みで反応してくれるマイクを見ているうちに『楽しい』と思えるようになっていった。 1回目のトライアルのとき。顔を付き合わせての授業は、やっぱり緊張感の方が買っていたから。 だから、街歩きの授業で過剰な緊張感を取ることができた。 そして、最後のトライアル。 場所は一階のカフェ。 一転して、今後のカリキュラムの提案から始まった。 私がどこまでのレベルの英語を学びたいのか、また仕事に英語を活用するのであれば、どんな仕事に興味があるのか、様々な英語を使う仕事を羅列しながらの質疑応答。 後半はそれらを踏まえた上で、日常生活の中で英語に触れる為の提案があり。どのようにレッスンを進めていくかの説明があった。 今までのトライアルは、どちらかというと『勉強』というよりかは『遊び』や『趣味』の領域だったから、少しだけ不安だった。 だから、最後のトライアルではその不安を取り除いてくれた。 電車が待ち合わせの駅に到着する。膝に置いていたリュックを背負い、プラットホームに降りる。 忙しなく動く乗客達に混ざって駅を出る。待ち合わせ場所は出口傍の一角。 ちょっとした緑とベンチがある小さな公園。駅を利用する人達の休憩場所や待ち合わせ場所になっている。 そこへ急ぐと、既にマイクはベンチに座って待っていた。 彼は背が高い人に多い猫背ではなく、すぅっと背筋が伸びていてキレイな姿勢でいることが多い。 今は長い脚を組んで、膝に肘をついて顔に手を当てて遠くを眺めていた。 黒い肌。長い脚。日本人だらけの周りの中、それは異質の塊。それでも、彼の姿はまるでファッション誌の表紙やアート性の高い絵画のように美しい。 一見、迫害されやすい『マイノリティ』を逆手に取るように『個性』へと昇華している。 私は彼のことを尊敬している。彼のように強くなりたいと切望している。その想いは日を増す毎に強くなっていて、気持ちをもて余すぐらいに。
/155ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加