STORY 《Ⅰ》-two-ユーキver.

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「ユーキ、カメラは持ってきた?」 私は頷いて、リュックからデジタル一眼レフを取り出す。 マイクはカメラを眺めてから、素早く色々な機能をチェックしだした。 「SDカード入れて軽く撮ってみてもええかな?」 私が頷くと、マイクは鞄からカードを取り出し、ファインダーを覗いてシャッターを切る。画面を見て設定を変えてシャッターを切る。それを数度繰り返した後。 「オッケー。大体このカメラの癖はわかったわ。Nikon D40か。ちょっと古いけど初心者には扱いやすいカメラやで」 今日は英語の授業ではなく、月に一度のサブレッスン。カメラの授業の日。 今までの3回は、マイクが持っているカメラで、カメラの機能の説明などの座学だったり、マイクが撮影した写真を見たり、室内での撮影だったりだったのだけど、今日は初の野外撮影レッスン。 「お母さんが昔、使っていたカメラ。親子二代で使ってもらえるなんて、このカメラは幸せもんやな」 そう言ってマイクはカメラを優しく触りながら、幸せそうに笑う。 本当は最初からこのカメラを使ってレッスンしてもらった方が良いというのはわかっていたのだけど、母の形見であるカメラを触る勇気がでなくて。 レッスンを進める内に言い出しにくくなっていて。 そして、少し前の家庭教師の日。私は手帳に母が撮った写真を常に数枚はさんでいる。偶然、こぼれ落ちたその写真をマイクが見て。 「誰が撮った写真?」 すごく真剣にその数枚の写真を眺めていたマイクがそう質問してきたので、亡くなった母が撮ったものだということ、実はそのカメラは手元にあること、それらを正直に告げた。 「そっか。すげぇ良い写真やな」 マイクは写真の一枚、湖と緑の木々と青空の風景写真を眺めながら。 「俺やったら、この風景はもっとシャープに撮ってまうわ。色のコントラストを強調して派手な感じに。でもユーキのお母さんは子供向けの絵本のように優しく柔らかく撮ってる。優しい人やったんやろうなぁ」 その感想を聞いた途端、思わず涙がポロリと溢れた。 マイクは困り顔の笑顔で、「次のカメラのレッスンん時に、このカメラ持っておいで」と優しく言ってくれた。
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