STORY 《Ⅰ》-two-ユーキver.

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イタリアン風バルに着くと金曜日の夕方だからだろうか、店は既にたくさんのお客さんで埋まっていた。 それでも、何とかカウンター席が開いていたので、二人横並びで座り、メニューの中から興味を惹かれたものを数点、選ぶ。 「ほな、今日もお疲れさん!」 マイクの音頭で乾杯をする。マイクは生ビール、私はアルコール度数の少ない甘いカクテル。 最初はお酒が苦手だった。20歳になる手前に、派遣先の会社の飲み会で無理やりビールや日本酒などを飲まされたことがあり。 翌日の酷い頭痛と吐き気。たいして美味しいと思わなかった苦いビールの味。飲めないと言っているのに無理やり勧める皆の顔。それらは『嫌な記憶』となって残り、それからは飲み会などを避け、お酒は飲んでいなかった。 けれど、それらのことを何かのときにマイクに話すと「もったいない」と呟いた数日後にお洒落なバーに私を連れていき。 「無理はせんでええけど、口に合ったら飲んでみ?飲めんかったら俺が飲むから」 そう言って、バーテンダーに「薄めで、でも美味しく作って」と無茶振りをして出てきたカクテルは薄い緑色したキレイな飲み物だった。 恐る恐る一口すすると強い炭酸と甘い飲み口、最後に少しだけピリリとアルコールの苦味。素直に「美味しい」と思った。それをマイクに告げると満足げな笑みとともに「美味しい酒もあるねん。でも、それ一杯だけやで、今日は。また連れてきてやるから」と言ってくれた。 そんな感じで彼は私が経験したことがないこと、嫌な記憶になっていることの上書きを常にしていってくれている。 今日のカクテルは下が黒に近い赤、上が鮮やかなオレンジの二層になっている。混ぜると鈍い色の赤へと変化するそれはトロリと甘く美味しい。 しばらくは今日の植物園の感想や撮影のことなどを美味しい食事とお酒をつまみに語り合い、お酒が入ると私も少しだけ饒舌になるようで、いつもより多めに質問などをしていた。
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