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私は力強く頷くと、カラリとした良い笑顔を浮かべて、浅井さんはうんうんと頷いた。
「こんな格好良い彼氏がおんねんやから守ってもろうたわな!」
いえ、彼氏じゃないです……と恥ずかしさの余り小さく呟いたけど、彼のガハハ笑いでかき消されてしまう。
しばらくマイクと浅井さんが雑談をしていると「戻りました」と木戸さんが交番に入ってくる。そして後ろに別の人影。
「先程は本当に申し訳ございませんでした」
頭を下げながらそう言って来たのはさっきのイタリアン風バルの店員さん。
「いや、こちらこそ騒ぎになってしまって、すいませんでした。あの後、大丈夫でした?」
立ち上がって店員さんに挨拶するマイクの質問には木戸さんが答えてくれた。
「私が行ったときにも、騒いでおり、テーブルを蹴った反動でグラスやお皿が割れていましたので、器物破損で現行犯逮捕しようかと思いましたが、お店側から騒ぎを大きくしてほしくないとの願いがありましたので、厳重注意に留めました」
マイクは木戸さんの説明に眉間にシワを寄せて苦しそうな表情になる。
「ほんま、すいません。俺が……」
マイクは最後まで言葉を紡がなかったけれど、きっと続きは。
『俺が黒人やなかったら、こんな騒ぎにならんかったのに』
バルの店員さんは大袈裟な位に首を振る。
「いえ。悪いのは人種差別主義のあのお客様であり、騒ぎをおさめきれなかった店側です。それよりもあんな侮蔑を受けても店や他のお客様を気遣って、立ち向かうこともせずに早々に立ち去る判断をしていただいて、本当にありがとうございます。悔しかったでしょうに……」
マイクはいつもよりは弱い笑顔だったが、大きく首を横に振った。
「本国に行っても、あんな極端な奴は一握りや。俺はちゃんとソレを知っているんで大丈夫です」
店員さんはホッとしたように笑うと、マイクが去る前に置いた一万円のお釣りを渡して、店のショップカードと、彼の名刺を渡していた。
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